一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター神奈川県支部(かなさぽ)

 

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成年後見制度発足20周年/「かなさぽ」創立20周年
一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター神奈川県支部20周年記念行事

記念論文募集結果について

一般社団法人コスモス成年後見サポートセンター神奈川県支部(愛称:かなさぽ)では、令和2年に設立20周年(前身を含む)を迎えるにあたり、利用者のための成年後見制度について、皆様とともに改めて考えることを目的として、広く論文の募集を行いました。ここに受賞者の方々を表彰するとともに、一部作品を掲載します。

1.募集概要

テーマ  利用者が望む成年後見制度とは
     利用者が望む成年後見人とは
     成年後見制度を利用して感じたこと
応募期間 令和元年11月~令和2年1月
応募資格 成年後見制度に関心をお持ちの方であれば、どなたでも可
文字数等 日本語で4,000文字以内

2.選考結果(敬称略)

入  賞 宮川導子「成年後見制度をもっと普及させるために」
佳  作 秋元美里「利用者が望む成年後見制度とは」
佳  作 澁谷智子「利用者が望む任意後見制度とは」
佳  作 髙木耐子「利用者が望む成年後見人とは」
優秀賞該当なし

以下、入賞作品の全文を掲載します。


宮川導子「成年後見制度をもっと普及させるために」

  1. はじめに
  2. かなさぽの活動が発足から20年になりおめでとうございます。私は平成15年に当時の理事長である眞達格先生のお話を聞き、行政書士としての後見制度への参画の必要性に大変興味を持ち、かなさぽの会員となり今年で18年目になる。
    思い返してみると、平成16年に初めて保佐人として受任し、以来現在まで後見人として、またご家族が後見制度を利用する場合のご相談、利用支援について活動を継続してきた。
    この制度は大変重要で、有用な制度だと思う。
    ところが、日本で現在の成年後見制度が始まって20年になるが、諸外国と比べると普及率が低い。制度発足当時は介護保険制度と車の両輪の関係ということで始まったが、介護保険制度ほど成年後見制度は普及していない。これはなぜだろうか。このことについて自分自身の経験も踏まえながら検討してみたいと思う。

  3. 成年後見制度が普及しない理由
    1. 成年後見制度の複雑さの問題
      まず、成年後見制度を利用する一般市民の方には法定後見と任意後見の違いや、手続方法が複雑でわかりにくいことが考えられる。私もご相談や講演会の際に、同様の質問をうけることが多い。
    2. 第三者後見人が就くことへの誤解や偏見
      次に制度発足の10年間と比較して、現在は親族後見よりも第三者後見(専門職後見人)の割合が多くなっている。そして第三者後見人に対しては、さしたる仕事をしていないのに報酬を高くとられるというような、事実とは異なる誤解や偏見まで生じている。
    3. 家庭裁判所の運用の問題
      最近の家庭裁判所では、本人の財産額や、申立て内容に法的紛争性が予想されると、本人や家族が希望している後見人候補者を必ずしも選任せず、全く面識のない専門職の人を後見人に選任することが多々あるが、これも制度利用が進まない一つの要因になっていると思われる。とりわけ障害を持つ方については精神状態に影響するので、本人が信頼できる、面識のある者が後見人に選任されることが非常に重要である。その意味で障害をもつ子供さんの親なきあとの問題について、面識のない後見人が本人に就くのならば、かえって本人の病状を悪化させかねず、親の側で制度利用を手控えてしまうことも少なくない。
      さらには当職が経験した事例でも、保佐の類型でご本人とご本人の家族と関係づくりをしながら相談を受け、私が保佐人候補者として保佐開始の申立てをしたが、結果としてご本人の財産保有額の問題で私は保佐人を不選任となり、別の士業の方が保佐人に選任されたということがあった。そして新しく選任された保佐人が初めてご本人と面会した席で、机に財産類を並べさせて目の前で奪うように持って行ってしまった結果、ご本人は、目の前で財産を奪われたことによるショックと将来への絶望で、後日自宅で包丁を持ち出して自殺未遂を起こしたという事例もあった。
    4. 経済的困窮事例についての報酬額の問題
      また最近では地域包括ケアシステムの構築も進み、市区町村のケースワーカー等から後見人の受任依頼などもいただくが、認知症が進行した本人のために、施設入所契約等のため成年後見人をつける必要があるのに、本人の所得が低く、保有財産はほとんどないということが多々ある。
      その場合に、第三者後見人に対する市区町村の報酬助成の条件について、本人の所得額が微妙なラインのために、なかなか後見人候補者が決まらず、たらいまわしにされているということも後見制度利用の数が増えない理由の一つに考えられる。
      我々第三者後見人としても、いくら社会貢献の気持ちがあってもボランティアではないので、責任は全面的に負担するのに、報酬もなく、交通費、電話代等の実費も自己負担となると、後見人受任について躊躇せざるを得ない。結果、後見制度の利用も進まないということになる。
  4. 成年後見制度普及のための解決策

    では、上記の問題点に対してより良い成年後見制度の活用と普及のためにどのような解決策が考えられるだろうか。

    1. 後見受任団体のさらなる普及啓発活動
      かなさぽのような後見受任団体は今までと同様にこれからも地道に市民向けに講演・相談活動を通じて普及啓発を続けていくことは必要だと思う。
    2. 後見人一人一人の研鑽の必要性
      また、後見人個人としても、後見人としての常識と教養を身に着けることも大事なことである。財産を見知らぬ第三者に管理されることを本人の気持ちになって考えるべきである。そうして受任時の初心にかえって後見人の仕事をしていけば、市民の第三者後見に対する不信感も減っていくと思う。第三者後見人も、家庭裁判所の監督のもと、本人の財産管理や身上監護について、いかに重大な責任を負担しながら活動していること、後見人の報酬額自体も一般の会社員や公務員の方に比較して決して高いわけではないこと等も世間に理解していただければ第三者後見についての市民の誤解も解けて制度の利用も進むと思われる。
    3. 家庭裁判所にもっと公平性と柔軟性を
      成年後見制度は「本人のための制度」であるので、家庭裁判所の対応も、本人や申立人の意向をもっと尊重すべきではないか。
      実際に、そのような運用が数年前まではなされていたように思う。
      申立て時の限られた情報(本人の保有財産額、法的紛争性の有無等)だけで、どの資格者が当該事例に合うのかをあてはめる発想で後見人を選任する運用があるとすれば、それが後日後見人と本人との関係性に不具合が生じる要因となるであろう。専門職の資格内容が重要なのではなく、あくまでその「本人自身」にだれが後見人として責任をもって務められるのかという「属人的な判断」がもっと必要ではないだろうか。
      私の経験でも、本人の財産額が高くても低くても後見人としての仕事(財産管理、身上監護)の方法や内容は変わりがないのが実際である。もし本人の保有財産額が高くすぐに使用しない財産があるという場合には、すでに制度としてある「成年後見制度支援信託制度」を財産管理方法として利用すればよいと思う。その意味で、後見人が何の資格者であるかによって、後見制度支援信託を適用するか否かを分けている裁判所の運用も公平性に欠ける。
      そして、後見人として仕事を開始してみなければ、本当に法的紛争性があるのかどうかわからないことが多い。
      専門職後見人とはいってもその職種の専門性は持ち合わせているが、成年後見人としてすべての専門分野に万能なのではない。後見業務の現場では、専門職後見人自身の専門分野でない事柄が本人に発生したら、該当する専門職に一時的に業務委託をしていけば問題は解決するのである。このように家庭裁判所の手続き自体も、本人のために、柔軟で公平な運用がなされれば、制度の利用は進むと思う。
    4. 成年後見制度は一種の『公共財』
      さらに成年後見制度をもっと普及させるにはこの制度自体を一種の『公共財』としてとらえることによって、国レベルで予算取りをして支えていただく必要があると思う。そうすれば、申立費用や成年後見人の報酬額を確保することができ、経済的に困窮している方も適切な時期に成年後見制度の利用ができ、後見人を受任する側としても、安心して受任に臨むことができると思う。
      後見人の活動は、社会貢献であるという意味合いが強いが、だからといってボランティアでできる仕事ではない。ボランティア活動は、自分ができる範囲で活動内容を決めることができ、途中でやめることも可能だが、後見人の活動は基本的には本人が死亡するまで続く。本人の財産を管理する責任の重い仕事である。
      また現状として後見人の業務内容や責任の度合いに対して後見人の報酬額はやや低いと感じる。後見人の報酬額をもう少し増やしていかないと、将来的に後見業務の多い困難事例や経済的困窮事例等は後見人を受任する第三者がいなくなるであろう。
      後見人の報酬額の多寡は、後見人の資格が何かによって決まるのではなく、個々の後見人自身の報告書からみる仕事内容によって決められるべきである。
      現在、日本では働き方改革で同一労働同一賃金の法則が叫ばれているが、成年後見業務についても同様の法則が適用されてしかるべきではないだろうか。
      以上を含めて、申立て費用や後見人に対する報酬額については、本人の所得、保有財産に応じて、国もしくは市区町村の予算額から助成されるべきである。(車の両輪関係である介護保険の普及が進んだのも、本人のサービス費の負担割合が一部となっており、それ以外は国が負担しているからであるとも考えられる。)このように成年後見制度を一種の公共財としてとらえて国家レベルで予算付けができればもっとこの制度は普及すると思う。
      さらに付け加えるならば、こういった助成金(成年後見制度利用支援事業等)の対象も、法定後見だけでなく、任意後見も対象にしていただければ、尚一層ご本人の成年後見制度の利用が早い時期に進められると思う。
    5. 任意後見制度についての対外的取扱の向上
      移行型の任意後見契約では、任意監督人が選任される前の任意後見受任者でも公正証書の中で本人の代理権を正式に持っており、契約締結後、法務局で登記もなされる。そこで任意後見人受任者の段階でも本人の正式な「代理人」として本人の取引金融機関や官署の窓口等で任意後見監督人選任後の任意後見人や、法定後見人と同様に取り扱っていただきたい。本人の判断能力は低下していないが高齢や障害で身体的に動けない方も多い。その意味で移行型任意後見契約は大変活用できる制度なので、対外的な取り扱いも柔軟になれば、任意後見制度の普及ももっと進むと思われる。
    以上
テーマ:利用者が望む成年後見制度とは
作品タイトル:成年後見制度をもっと普及させるために
氏名:宮川導子
職業:行政書士